漆の歴史は、石器時代に矢じりを木や竹の棒に植物の皮などで縛り、丈夫にするために漆を塗ったことに始まると言われています。
科学的に証明されているのは、約1万２千年前に福井県の若狭町鳥浜貝塚で漆の木が出土し、漆の製品は約９千年前に北海道函館市臼尻町の垣ノ島Ｂ遺跡で副葬品などが出土されています。さらに縄文時代初期の漆器の素地の種類、漆の下地の素材、漆に混ぜた朱などの顔料の種類、下地、塗りの回数、乾燥法などが解明されています。約５千5百年前の遺跡から出土された漆塗りの製品を実際に見ても、その色と艶は見事に残っていたそうです。
人が漆を採取していた採取跡のある漆の木が、縄文時代後期の遺跡から出土していて、古墳時代にも漆の利用があり、飛鳥・奈良時代には『税』として漆を納めていました。江戸時代には漆の栽培、採取の方法を記したものがあり、現在の栽培、採取の方法につながっています。
石油などの化石資源や電気などのエネルギーを使わずに、漆を原料とすることで、漆の加工、漆器の制作、使用、廃棄の全過程で地球・環境に負担をかけないことが注目され、これからの文化や科学技術、産業での新しい価値として期待が持たれています。
漆採取／漆掻きは自然からの恵み
漆を育てるには、親の漆の木から秋に実を採り、皮をむいて、種の周りにある蝋をお湯などで除いて水につけて畑に蒔き、発芽を待ちます。もう一つの方法は、親の漆の木の根を掘り、太さ1�儖幣紂�長さ20�冂�にそろえて畑に植えて発芽させます。それぞれ作った苗を毎年畑で植え替えて、3年ほど成長させ山や漆畑に植栽して成長させます。10年〜20年ほど育てやっと漆を採取します。
漆は生きている木から採取します。始めから漆の木の中に漆があるわけではなく、木が傷を治そうとして漆を木の中に作り出します。木にわざと傷をつけ、傷をつけられたことにより傷害ホルモンが出て漆を生産し始めます。木の自然治癒力をうまく利用して恵みをいただいているわけです。
漆の効用／漆がいいと言われる理由
漆の成分はウルシオール、ラッカーゼ（酵素）、ステラシアニン、水分、ゴム質。糖タンパクで出来ています。ウルシオールは抗酸化性と自動酸化性の相反する性質を持ち、抗酸化性を失わせるのが酵素であるラッカーゼで、温度20℃、湿度80%の状態でラッカーゼが活発に働き、漆が酸化重合して『乾く』という硬化の仕組みも解明されていています。乾いた漆は、高分子化合物となり、熱や湿気、酸やアルカリに強く、王水（金を溶かす濃塩素と濃硝酸の混合液）にも溶けません。唯一、普通に使えば丈夫な漆も、紫外線とバクテリアにより分解され、自然に戻るということも科学的に分かりました。
漆の特性を生かし、長く使える良いものとして古代より漆芸は行われてきました。漆は乾いてしまえば、熱や湿気、酸やアルカリ、塩分に強く、アルコールや有機溶剤に溶けることはないのです。漆器の制作過程でも有機溶剤は必要ないので、漆工芸品からは化学物質は一切出ることはなく、間違ってかけらを飲み込んでしまっても体には無害で安心です。漆は接着剤と塗料以外の利用として、薬用にも使われていたそうです。
漆かぶれ／正しい漆かぶれの知識
漆というと『かぶれる』と誰もがいいます。実際に誰でもかぶれます。まれに全くかぶれない人もいます。かぶれは体のアレルギー反応で起こります。アレルギー性接触皮膚炎で、赤くはれたり、水泡が出たりと症状も様々です。また、体調によりかぶれ方も変わります。原因は乾いていない（硬化していない）漆の中のウルシオールです。ウルシオールに身体のある細胞が反応し、外敵と認識して抗体を作る細胞に情報を伝えます。別の細胞に抗体が結合して、ウルシオールを撃退するという反応が漆かぶれとなりますが、漆がしっかりと乾いていれば漆でかぶれることはありません。漆は乾いてしまえば丈夫で美しいです。怖がらずにご使用いただけると嬉しく思います。もし、漆にかぶれたら、痒みに耐えて引っ掻いて傷にならないように注意して清潔にしておいてください。水やアルコールで冷やすと痒みは落ち着きます。ひどい場合は皮膚科の診察を受けて薬を使うと治ります。昔は沢蟹をつぶした汁を塗ったり、海水浴、スギナをもんで出た汁か煎じた汁を塗ったり、枇杷の葉を焼酎に漬け込んだ汁を塗ったりしたそうです。
